- 南海トラフ・首都直下などの発生確率と被害想定を、最新の公表値で読む
- 家具の固定・感震ブレーカー・耐震化で、想定の被害がどれだけ減るか
- 揺れている間に、屋内・屋外・エレベーター・車の中・海の近くでとる動き
- 揺れた後の最初の1時間にすること
- 南海トラフ地震臨時情報と後発地震注意情報が出たときの過ごし方
結論
地震への備えは、「揺れる前」「揺れている間」「揺れた後」の3つに分けると整理しやすくなります。いちばん効き目が大きいのは揺れる前の備えです。内閣府の南海トラフ巨大地震の被害想定(2025年3月公表)では、古い建物の耐震化が進むと建物の倒壊による死者は約77%、感震ブレーカーの設置が進むと火災による死者は約52%減ると推計されています。
揺れている間は、場所ごとに「まず身を守る」動きを一つ覚えておけば足ります。揺れた後の最初の1時間は、火の始末、津波からの避難、安否の確認の順に動きます。臨時情報が出たときにどう過ごすかは、出てから調べると間に合わないので、この記事の後半で先に確かめておきます。
日本の地震のリスクを数字で見る
政府の地震調査研究推進本部(地震本部)は、主な地震の発生確率を毎年1月1日を基準に計算し直しています。最新は2026年1月14日公表、基準日は2026年1月1日の値です。地震本部は、日本はどの場所でも強い揺れに見舞われるおそれがあるとして、耐震補強や家具の固定を日頃から進めるよう呼びかけています。
| 地震 | 今後30年以内の発生確率 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| 南海トラフのM8〜M9クラス | 60%〜90%程度以上(すべり量依存BPTモデル)/20%〜50%(BPTモデル)。どちらも最も高い「Ⅲランク」 | 2026年1月1日時点、地震本部 |
| 相模トラフ沿いのM7程度(首都直下を含む、プレートの沈み込みに伴う地震) | 70%程度 | 地震本部「相模トラフ沿いの地震活動の長期評価(第二版)」 |
| 相模トラフ沿いのM8クラス(大正関東地震の型) | ほぼ0%〜6% | 2026年1月1日時点、地震本部 |
| 千島海溝沿いの超巨大地震(17世紀型、M8.8程度以上) | 7%〜40% | 2026年1月1日時点、地震本部 |
| 日本海溝沿い 青森県東方沖及び岩手県沖北部(M7.9程度) | 20%〜40% | 2026年1月1日時点、地震本部 |
南海トラフの確率が2つ並んでいるのは、2025年9月26日の長期評価の一部改訂で、計算方法を2つ併記したためです。それまでの「80%程度」は、高い方の値の幅に含まれます。地震本部は、どちらのモデルが適切かは科学的に優劣をつけられないとしたうえで、具体的な値を示すときは高い方を強調することが望ましいとしています。数字の差に目を奪われるより、「最も高いランクのまま」と受け取るのが実用的です。
被害の大きさは、内閣府の被害想定で見ます。南海トラフは2025年3月31日、首都直下は2025年12月19日に新しい想定が公表されました。
- 南海トラフ巨大地震(東海地方が大きく被災するケース):死者 約6.5万〜約29.8万人、全壊・焼失 約96.6万〜約234万棟
- 首都直下地震(都心南部直下地震):死者 約1.8万人、全壊・焼失 約40万棟、避難者 約480万人、帰宅困難者 約840万人、災害関連死 約1.6万〜4.1万人
南海トラフの想定には、対策でどれだけ減るかの推計も載っています。古い建物の耐震化で建物倒壊による死者は約7.3万人から約1.7万人に(約77%減)、家具の転倒・落下防止で約5,300人から約1,800人に(約66%減、参考値)、感震ブレーカーで火災による死者は約2.1万人から約1万人に(約52%減)なるとされています。首都直下の報告書も、個人・家庭の取り組みとして住宅の耐震化、家具の固定、感震ブレーカー、家庭備蓄を挙げています。
南海トラフの想定では、津波についても、すぐに避難を始める人が多い場合とそうでない場合で、津波による死者数に約2.3倍〜約9.8倍の差が出るとされています。想定は最大クラスの地震を前提にした数字で、次に起きる地震がこの大きさになるという意味ではありません。それでも、対策でどこまで減らせるかが示されている点は、家庭の備えの優先順位を決めるのに役立ちます。
揺れる前に:家具・寝室・電気・建物
家具を固定し、寝室から倒れる物を減らす
東京消防庁の家具類の転倒防止のハンドブックでは、近年の地震でけがをした人の約30〜50%が、家具類の転倒・落下・移動によるものでした。倒れた家具は、けがだけでなく、出入口をふさいで逃げ遅れの原因にもなります。
手をつける順番は、寝室、子ども部屋、出入口の近くです。寝ている間は揺れに気づいてから身を守るまでの時間がほとんどありません。背の高い本棚やタンスは寝床に向かって倒れない向きに置き、ベッドの頭の上に物を置かないようにします。テレビや電子レンジのような重い家電も、落ちる前提で固定します。
感震ブレーカーで、地震の後の電気火災を防ぐ
内閣府・消防庁・経済産業省の検討会の資料では、東日本大震災の本震による火災のうち原因が分かったもの110件の65%(71件)、阪神・淡路大震災では139件の61%(85件)が、電気に関係する火災でした。倒れた電気ストーブや、停電から戻ったときに傷んだ配線から火が出る「通電火災」がこれに当たります。
感震ブレーカーは、一定の揺れを感じると電気を自動で止める器具です。分電盤ごと止めるもの、コンセント単位で止めるもの、重りやバネでブレーカーを落とす簡易なものがあります。夜に停電すると真っ暗になるため、足元を照らす保安灯や懐中電灯とセットで用意します。内閣府の調査(2022年9月)では設置率は5.2%(参考値)にとどまっており、自治体によっては購入や設置の補助があります。
建物の耐震性を確かめる
国土交通省の推計では、2023年時点の住宅の耐震化率は約90%で、耐震性が不十分な住宅は約570万戸残っています。戸建て住宅に限ると耐震化率は約85%です。1981年(昭和56年)以前に建てられた家は、特に確かめたい対象です。
多くの市区町村が、耐震診断や耐震改修の費用の一部を補助しています。対象になる建物の条件や金額は自治体ごとに違うので、住んでいる市区町村の窓口かホームページで確かめてください。賃貸住宅なら、管理会社に建物の建築年と耐震診断の有無を聞いてみるのが最初の一歩です。
水や食料などの備蓄は、コラム「家庭と職場の備蓄は何日分?ローリングストックと要配慮者の備え」にまとめています。
揺れている間:場所ごとの動き
気象庁は、緊急地震速報から強い揺れまでは数秒から数十秒しかないとし、周囲の状況に応じて、慌てずに、まず身の安全を確保するよう案内しています。次の表は、気象庁の案内をもとに場所ごとの動きをまとめたものです。
| いる場所 | まずすること | 避けること |
|---|---|---|
| 家の中 | 頭を守り、丈夫な机の下などに入る | 慌てて外に飛び出す。揺れている最中に無理に火を消しに行く |
| 人が大勢いる施設 | 係員の指示に従い、その場で身を守る | 出口に向かって走る |
| 街の中 | ブロック塀・看板・割れたガラスから離れる。近くに丈夫なビルがあれば中へ | 塀や自動販売機の横に立ち止まる |
| 山やがけの近く | 落石やがけ崩れに注意し、斜面から離れる | 斜面の下にとどまる |
| エレベーター | 最寄りの階で止めて、すぐに降りる | 止まった後も乗り続ける |
| 車の運転中 | ハザードランプをつけ、急ブレーキをかけずにゆるやかに減速。大きく揺れたら道路の左側に止める | 急ブレーキ・急ハンドル |
| 電車・バス | つり革や手すりにしっかりつかまる | 自分の判断で車外に降りる |
| 海の近く | 強い揺れや、弱くても長くゆっくりした揺れを感じたら、すぐに海から離れて高い所へ | 津波が見えるまで様子を見る |
海の近くでの動きだけは、「揺れが収まるのを待つ」より「揺れが収まったらすぐ逃げる」が先です。気象庁は、津波は海岸に来るのを見てから逃げても間に合わないこと、揺れを感じなくても津波警報を見聞きしたら避難することを挙げています。海水浴場では、赤と白の格子模様の津波フラッグも避難の合図になります。
緊急地震速報をスマホで受け取れるかどうかの確かめ方は、緊急地震速報の訓練の記事にまとめています。
揺れた後の最初の1時間
揺れが収まってからの1時間は、順番を決めておくと迷いが減ります。
- 身の回りを確かめる:けががないか、靴やスリッパを履いて割れたガラスから足を守る
- 火の始末:火を使っていたら、揺れが収まってから消す。電気ストーブなどはプラグを抜く
- 津波の危険がある場所なら、すぐに避難:津波警報・注意報が解除されるまで戻らない
- 家を離れるときはブレーカーを切る:戻ってきて電気を入れるときは、コードや家電に傷や焦げがないかを見てから
- 家族の安否を確かめる:災害用伝言ダイヤル(171)や web171 に、決めておいた番号で伝言を残す
- 情報は公式の発表で確かめる:自治体の避難情報や気象庁の情報を見て、出どころの分からない投稿は広めない
通電火災は、停電が戻った直後に起きやすい火災です。避難するときにブレーカーを切っておけば、留守の間に電気が戻っても火が出にくくなります。火の始末は、揺れている最中ではなく揺れが収まってからです。気象庁も、揺れている間に無理に火を消そうとしないよう案内しています。
大きな地震の後には、同じくらいの揺れがしばらく続くことがあります。家が傾いた、壁に大きなひびが入ったといった場合は、無理に家の中にとどまらず、近くの避難場所に移ります。
電話がつながりにくいときの連絡のとり方は、コラム「災害時の安否確認は171とweb171で。体験利用日と00000JAPANの注意点」に、スマホが圏外になったときの確かめ方は電波が入らないときの記事にあります。地震の後に出回りやすい偽情報や便乗した詐欺は、コラム「災害や大きなニュースに便乗する偽情報と詐欺。広める前・寄付する前の確かめ方」で扱っています。
断水や停電が続いたときの食事やトイレの工夫は、コラム「停電・断水のときの暮らしの知恵。ポリ袋調理・トイレ・水の運び方・寒さ対策」にまとめています。
揺れる前・揺れている間・揺れた後にすること
- 寝室と出入口の家具を固定
- 感震ブレーカーと保安灯
- 建築年を見て耐震診断
- 171の番号を家族で決める
→ 効き目がいちばん大きい
- 頭を守り丈夫な机の下へ
- 外に飛び出さない
- 車はゆるやかに減速
- 海の近くはすぐ高い所へ
→ まず身の安全
- 揺れが収まってから火の始末
- 津波の危険があれば避難
- 家を出るときブレーカーを切る
- 安否は171、情報は公式で
→ 順番を決めておく
臨時情報・後発地震注意情報が出たら
大きな地震の後、さらに大きな地震が続けて起きる可能性が平常時より高まったときに、気象庁が出す情報が2つあります。どちらも地震を予知するものではなく、「普段より可能性が高まっているので備えを見直してください」という知らせです。
| 情報 | 出る条件(要点) | そのときにすること |
|---|---|---|
| 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震警戒) | 想定震源域のプレート境界でM8.0以上の地震が起きたと評価したとき | 自治体が決めた事前避難対象地域の人は1週間の事前避難。それ以外の人も備えを見直し、すぐ逃げられる準備。その後さらに1週間は注意して過ごす |
| 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意) | 監視領域でM7.0以上の地震が起きたとき、またはふだんと違うゆっくりすべりが起きたと評価したとき | 事前避難はしない。1週間ほど、備えを見直し、すぐ逃げられる準備をして過ごす |
| 北海道・三陸沖後発地震注意情報 | 日本海溝・千島海溝沿いの想定震源域に影響を与える場所でMw7.0以上の地震が起きたとき | 1週間、すぐに逃げられる態勢を保ち、非常持出品を身近に置いて過ごす |
南海トラフ地震臨時情報は、2024年8月8日に初めて「巨大地震注意」が出ました。16時43分ごろの日向灘の地震(M7.1、最大震度6弱)を受けて、気象庁は17時に「調査中」、19時15分に「巨大地震注意」を発表し、政府の特別な注意の呼びかけは8月15日17時に終わりました。2025年1月13日の日向灘の地震では、「調査中」の後、同じ日の23時45分に「調査終了」が出ています。
北海道・三陸沖後発地震注意情報は、気象庁の発表履歴では、2025年12月9日(前日の青森県東方沖の地震、Mw7.4、最大震度6強)と、2026年4月20日(同日の三陸沖の地震、Mw7.4、最大震度5強)の2回です。内閣府と気象庁の資料では、世界のMw7.0以上の地震1,529例のうち、1週間以内にMw7.8以上の地震が続いたのは19例で、約1%、平常時の10倍程度の頻度とされています。
どちらの情報でも、呼びかけの期間が終わったからといって、地震の可能性がなくなるわけではありません。逆に、情報が出ないまま大きな地震が突然起きることもあります。情報が出た1週間は、次のような「すぐ動ける状態」を保つと考えてください。
- 寝るときに、靴・懐中電灯・スマホを枕元に置く
- 非常持出品を玄関か寝室にまとめ、外出時は最低限を持ち歩く
- 家具の固定や避難経路を見直し、海の近くでは避難先までの道を一度歩いておく
- 旅行やイベントは中止を前提にせず、行き先の避難場所を確かめてから出かける
ミサイルなど地震以外の緊急情報の受け取り方は、コラム「Jアラートで弾道ミサイルの情報が出たら。屋外・屋内・車の中での行動」にあります。
家族・職場で決めておくこと
備えは、一人で知っていても、家族や同僚が知らなければ働きません。次の項目を、家族や職場で一度ずつ話し合っておくと、揺れた後の最初の1時間に迷う場面が減ります。自治体のハザードマップの見方は、コラム「災害時に見る公式の情報源。ハザードマップ・キキクル・避難情報・停電情報」が参考になります。
確認リスト
- 寝室と出入口のまわりの家具を固定し、ベッドの頭の上に物を置いていないか
- 感震ブレーカーがあるか。なければ、避難するときにブレーカーを切る人を決めたか
- 家の建築年を知っているか。1981年以前なら、自治体の耐震診断の補助を調べたか
- 自宅・職場・学校の近くの避難場所と、津波のときに逃げる高い場所を知っているか
- 171で伝言を残す番号を家族で1つに決め、一度試したか
- 臨時情報が出たら1週間どう過ごすか(枕元の靴・持出品・連絡)を家族と職場で共有したか
今日、まず確認すること
今夜、寝室を見回して、寝ている場所に倒れてきそうな家具や落ちてきそうな物が1つもないかを確かめてください。