- ツール選びより先に業務を書き出す理由
- 1行1作業で業務を洗い出す方法
- 二重入力と人に依存した作業の見つけ方
- 変更の前後で効果を測る3つの物差し
結論
最初にやることは、ツールを選ぶことではなく、いまの業務を1行ずつ書き出すことです。何が紙で、何がExcelで、何がメールやチャットで動いているかを並べると、手を付ける順番はだいたい自然に決まります。システムを比べるのは、その後で間に合います。
DXという言葉は広すぎるので、「システムを入れること」と読み替えられがちです。ここでは、入れる前にやる作業の話だけをします。
なぜ最初でつまずくのか
製品の比較から始めると、途中で自社の業務を説明できないことに気づきます。「注文はどこから来て、誰が受けて、どの時点で数量が確定するのか」を一枚で説明できないまま導入すると、現場の手順に合わない設定のまま運用が始まります。合わない部分は結局、手作業で埋めることになります。
もうひとつは、範囲を広げすぎることです。受注から請求までを一度に作り直そうとすると、関係者も決めることも増えます。決めきれずに止まった案件は、次に何かを変えようとするときの心理的な重しになります。「前のあれ、結局どうなったんですか」と言われる状態を作らないほうがいいです。
まず業務を洗い出す
紙でもExcelでも構いません。1行1作業で、次の4つだけを埋めます。凝った書式にしないほうが最後まで書けます。
- 作業の名前(例:現場から届いた日報を受け取る)
- 何で動いているか(紙/Excel/メール/チャット/PDF/手書き/口頭)
- 誰がやるか
- どのくらいの頻度か(毎日/週1/月末だけ)
書き出す範囲は、まず自分の部署の1か月分にします。全社を一度に見ようとすると集まりません。月末にしか発生しない作業を落としやすいので、前の月のカレンダーを見ながら書くと抜けが減ります。
書くときは「やっていること」をそのまま書きます。あるべき姿や、こうしたいという希望は別の紙に分けます。混ぜると、実際には行われていない手順が一覧に混ざり、後で判断を誤ります。口頭で頼んでいる作業や、担当者が気を利かせてやっている確認作業も1行として書きます。こうした行は表に出にくいのに、抜けると止まります。
書き終えたら、同じ内容が別の行に何回出てくるかを見ます。ここが次の手がかりです。
二重入力と、人に依存している作業を探す
洗い出した表から、次の2種類の行に印を付けます。
二重入力は、同じ数字や名前を2回以上打ち直している作業です。たとえば、現場が手書きした日報の作業時間を事務所でExcelに打ち直し、月末に給与計算の表へもう一度転記している、という形で見つかります。打ち直しの回数だけ、間違いの入口が増えます。
人に依存している作業は、手順が本人の頭の中にしかない作業です。見分け方は簡単で、「この人が1週間休んだら止まるか」を1行ずつ当てはめます。止まる行に印が付きます。印が多い担当者がいたら、その人が悪いのではなく、手順が書かれていないだけです。
印が付いた行のうち、頻度が高いものから3つだけ選びます。3つより多く選ぶと、どれも中途半端に終わります。
実務ではこうなる
たとえば8人の内装工事の会社で、洗い出しの結果こうなったとします。
| 作業 | 何で動いているか | 頻度 |
|---|---|---|
| 現場の作業時間を日報に書く | 紙 | 毎日 |
| 日報をExcelに転記する | Excel | 毎日 |
| 月末に給与計算用の表を作る | Excel | 月1 |
| 仕入れ先の請求書を保管する | 紙とPDFが混在 | 月1 |
最初に手を付けるのは、基幹システムの刷新ではなく「日報の転記」です。現場が入力した時点でデータになっていれば、月末の表はその集計で済みます。紙の日報をやめるのが難しければ、事務所での転記を1回に減らすだけでも変わります。請求書の保管は、置き場所と名前の付け方を決めるだけで、システムを入れずに片付く場合があります。
電子的に保存する書類の扱いには制度上の決まりがあります。保存期間や区分の細かい要件は、制度の改正で案内が変わることがあるため、国税庁の案内を確認してから運用を決めてください。
効果はこう測る
「便利になった」だけでは続きません。次の3つのうち、測りやすいものを1つ選んで、変更の前後で比べます。
- 時間:その作業に月あたり何分かかっているか
- 回数:同じデータを何回入力しているか
- ミスの数:やり直しや問い合わせが月に何件あったか
計測は1か月で十分です。厳密な計測より、始める前の数字を残しておくことのほうが大事です。前の数字がないと、次に何かを変えたいときに説明する材料がありません。ストップウォッチで測る必要はなく、「だいたい1回10分、月20回」という粗さで構いません。
測る相手は作業であって、人ではありません。個人の速さを比べる材料に使うと、次から正直な数字が出てこなくなります。集計したものは担当者にも見せて、実感と合っているかを確かめてください。合っていなければ、手順のどこかを見落としています。
効果が出なかったときに、無理に数字を良く見せないでください。合わなかった理由を1行書き残すほうが、次の判断に使えます。
まとめ
DXは、システムを入れることと同じではありません。まず1か月分の業務を1行ずつ書き出します。次に、二重入力と、人に依存している作業に印を付けます。頻度が高い3つだけを選び、小さい作業から直します。最後に、時間・回数・ミスの数のどれかで前後を比べます。この順番なら、途中で止まっても手元に業務の一覧が残ります。