- AI OCRで楽になる作業と残る作業
- 請求書の受信から保存までの6つの手順
- 読み取る項目を5つほどに絞る理由
- 人の確認の工程を残す3つの理由
結論
請求書のAI OCRで楽になるのは、「入力」ではなく「転記」と「探す時間」です。取引先名・日付・金額を手で打ち直す作業と、あとから1通を探し出す作業が短くなります。一方で、支払いに直結する数字は担当者が確かめる工程を残します。読み取りの精度は書類の作りによって変わり、同じ取引先でも様式が変われば結果も変わるためです。
どこまで楽になるのか
月末に届く請求書が50通あるとします。これまでは、メールを開く、添付を保存する、ファイル名を付け直す、会計ソフトに取引先と金額を打ち込む、この4つを50回くり返していました。
OCRを挟むと、保存とファイル名付けと転記の下ごしらえまでが機械の側に移ります。担当者の仕事は「打ち込む」から「合っているかを見る」に変わります。作業がなくなるのではなく、種類が変わる、という理解が実態に近いです。
効果が出やすいのは通数より「様式の種類」が少ない場合です。取引先が20社でも様式が20通りなら、揃えるところから始めます。
受信から保存までの流れ
1. メールを受け取る
請求書の受け取り先を1つのアドレスにまとめます。担当者個人のアドレスに届いている状態だと、その人が休んだ日に処理が止まります。
2. PDFとして保存する
添付を決まった場所に保存します。この時点ではファイル名は元のままで構いません。名前を整えるのは中身を読み取ったあとです。郵送で届いた紙は、ここでスキャンして同じ場所に入れます。
3. OCRにかける
PDFの中身を文字として取り出します。スキャンしたPDFは画像なので、この工程を通さないと検索もコピーもできません。読み取った結果は、元のPDFを差し替えずに別で持っておくと、あとから確認しやすくなります。
4. 取引先・日付・金額を取り出す
請求書で後から使う項目は多くありません。取引先名、請求日、支払期日、合計金額、請求書番号。この5つが取れれば、探すのにも突き合わせるのにも足ります。すべての項目を取ろうとすると、確認の手間が増えて元が取れません。
5. 担当者が確かめる
取り出した5項目と、PDFの見た目を並べて確認します。ここで直した内容は、次に同じ取引先の請求書が来たときの手がかりになります。
6. 保存する
確認が済んだものだけを保管先に移します。ファイル名と、取り出した項目の両方を持たせておくと、名前を思い出せなくても探せます。
なぜ確認の工程を残すのか
理由は3つあります。
1つ目は、間違いが金額に直結することです。合計欄と小計欄を取り違えたまま支払処理に進むと、気づくのは入金の照合時になります。差額の調査は、確認にかかる時間よりはるかに長くかかります。
2つ目は、様式が変わることです。取引先がシステムを入れ替えると、請求書のレイアウトは予告なく変わります。それまで正しく取れていた項目が、翌月から別の欄を拾い始めることがあります。人が見ていれば、その月のうちに気づけます。
3つ目は、請求書が「読み取る対象」だけではないことです。金額が合っていても、注文していない品目が入っている、単価が話と違う、締め日がずれている。この判断は担当者にしかできません。確認の工程は、OCRの精度を補うためだけのものではなく、もともと業務に必要な工程です。
「確認を省くと速くなる」ように見えますが、速くなるのは正しい月だけです。おかしな月の後始末まで含めると、確認を残したほうが平均では短くなります。
実務ではこうなる
例えば、食品の卸をしている15人ほどの会社を考えます。月末に届く請求書がメールと郵送に分かれていて、経理の担当者は1人とします。まず受け取りアドレスを1つに集め、郵送分は届いた日にまとめてスキャンする運用にします。
この会社では請求書番号で突き合わせをしないので、先に挙げた5項目から請求書番号を外し、取引先名・請求日・支払期日・合計金額の4つに絞ります。確認画面で目を通し、直す必要がある分だけ手を入れます。月末の2日間が転記でふさがっているなら、その時間を目視と例外対応に充てやすくなります。金額の取り違えも、確認の段階で見つけて直しやすくなります。
もう1つ変えられるのは、問い合わせへの対応です。「3月のあの分、いくらでしたか」と聞かれたとき、メールの検索から始める代わりに、取引先名と月で絞り込んで探せるようになります。
注意点
支払データの作成まで含めて自動にすると、確認を飛ばしたときの影響が大きくなります。読み取りから支払処理までの間に、人が承認する区切りを1か所は置いてください。
電子データで受け取った請求書の保存方法には、制度上の決まりがあります。保存期間や要件の細かい部分はここでは触れません。国税庁の案内を確認してください。
また、OCRの結果を元のPDFに上書きしないでください。読み取りをやり直したいときや、様式が変わったときに、原本が残っていないと確かめようがなくなります。原本はそのまま、取り出した項目は別に持つ。この形にしておくと後で困りません。
まとめ
- 楽になるのは転記と検索で、判断そのものは残ります。
- 取り出す項目は5つ程度に絞ると運用が続きます。
- 様式変更に気づけるよう、人の確認を工程として残します。
- 原本のPDFは差し替えずに保管します。