IT基礎

クラウドの同期はバックアップではない。消えるときは全端末から消える

クラウドストレージに置いてあるから安心、とは言い切れません。同期は「同じ状態をそろえる」仕組みなので、誤削除も同期されます。世代管理・別の場所への保管・復元テストまで含めて、バックアップの形を整理します。

最終確認 2026.10.24約4分で読めます

この記事で分かること
  • 同期とバックアップの目的の違い
  • 1つの誤削除が全端末に広がる流れ
  • 同期の仕組みでは戻せない4つの場面
  • 世代・別の場所・復元テストの決め方

結論

クラウドストレージの同期は、バックアップの代わりにはなりません。同期は「どの端末でも同じ状態にそろえる」仕組みなので、ファイルを消すという操作もそろえてしまいます。バックアップは「ある時点の状態を、別に取っておく」仕組みです。目的が違います。両方あって、はじめて戻せます。

誤削除がどう広がるか

順番に追うと分かりやすいので、実際の流れとして書きます。

  1. 営業部の担当者が、共有フォルダの中の古い見積もりを整理しようとして、フォルダごとゴミ箱に入れます。
  2. その端末の同期アプリが、削除をクラウドに伝えます。
  3. クラウド側で該当フォルダが消えます。
  4. 他の5台の端末が、それぞれ同期して、手元からもフォルダが消えます。
  5. 翌朝、別の担当者が「フォルダが無い」と気づきます。

ここまでに新しいデータは何も壊れていません。正しく動いた結果です。同期は速いので、気づいたときには全端末から消えています。バックアップが無いと、この時点で手がかりが「クラウド側のゴミ箱に残っているかどうか」だけになります。

注意
ゴミ箱や版の履歴は保持期間が決まっており、サービスや契約によって日数が違います。数か月前に消えたことに気づいた、という場合は間に合わないことがあります。自社が使っているサービスの保持期間を、契約画面か管理者向けの説明で確かめておいてください。
同期(クラウドストレージ)
端末A端末B端末C

同じ状態にそろえる仕組みなので、消したことも上書きも、そのまま全部の端末へ届きます。

バックアップ
月曜の控え火曜の控え水曜の控え

時点ごとに残るので、消したあとでも「昨日の状態」に戻せます。

同期は「同じ状態をそろえる」仕組み、バックアップは「その時点を残す」仕組みです。戻す先があるかどうかが違います。

同期の仕組みが苦手なこと

誤削除のほかにも、同期では戻せない場面があります。

  • 上書き。前の版が残る設定であっても、残る数と期間には上限があります。
  • 中身が壊れたまま保存されたファイル。壊れた状態が正しい状態として同期されます。
  • 暗号化型のランサムウェアによる被害。端末側で書き換えられたファイルが、そのままクラウドへ反映されます。
  • 権限の付け替えや、共有設定を一括で変えてしまった操作。ファイルは残っていても、必要な人が開けなくなります。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開しているランサムウェアの資料でも、外付けHDDやUSBメモリを常時つないだままにしていると、バックアップしたファイルも暗号化の対象になる、と説明されています。同期でつながったままのクラウドも、この「つながったまま」に近い状態だと考えてください。

バックアップの形を決める

用意するときは、次の3点を紙に書いて決めます。どれか一つでも決まっていないと、戻せない可能性が残ります。

1. 世代を持つ

「今の状態」だけを別の場所にコピーしても、壊れた状態を上書きしてしまえば終わりです。日次で7世代、週次で4世代、月次で6世代というように、さかのぼれる幅を決めます。何日前まで戻せるかが、気づくまでの猶予になります。

2. 別の場所に置く

同じ端末の別ドライブ、同じクラウドの別フォルダは「別の場所」ではありません。端末が壊れる、アカウントが乗っ取られる、といった一つの出来事でまとめて失われるからです。常時つないでいない外付けの媒体、あるいは同期とは別系統のバックアップサービスを使います。IPAの資料でも、バックアップに使う装置や媒体は複数用意すること、バックアップのときだけ接続することが望ましいとされています。

3. 復元を試す

いちばん飛ばされやすい工程です。IPAの資料は、いざというときにリストアできなければ意味がないので、問題なく戻せるかを定期的に確かめるよう求めています。年に1回でよいので、実際に1フォルダを別の場所へ戻し、開けるところまで確認してください。

ここがポイント
復元テストは、担当者が休みの日にやると価値が上がります。手順書だけで他の人が戻せるかどうかが分かるからです。

実務ではこうなる

たとえば、従業員20人の建材商社を考えます(説明のための架空の例です)。図面と納品書はクラウドストレージで共有し、全員が同期して使っています。ここに次の2つを足しました。

  • 週に1回、事務所のNASへまとめて取得し、月末の1本を外付けHDDに移して金庫に入れる。HDDは移すときだけつなぐ。
  • 半年に1回、前月の請求書フォルダをテスト用の場所へ戻し、PDFが開けるか、ページが欠けていないかを確認する。

半年後、担当者が請求書フォルダを別フォルダへドラッグして行方が分からなくなったとき、クラウドの履歴で足りました。それでも、この手順があることで「最悪でも先月末には戻せる」と判断でき、探す作業を落ち着いて進められました。バックアップの効き目は、こうした判断の余裕にも表れます。

注意点

バックアップを増やすほど、置き場所が増えます。個人情報を含むファイルを外付け媒体に出すなら、持ち出しの扱いと保管場所を先に決めてください。誰でも触れる棚に置いた媒体は、それ自体が漏えいの入口になります。

もう一つ、バックアップは事故を防ぐ仕組みではありません。戻すための仕組みです。誤削除そのものを減らすには、共有フォルダの削除権限を絞る、整理作業の前に対象を書き出す、といった別の手当てが要ります。

まとめ

同期は「そろえる」仕組み、バックアップは「取っておく」仕組みです。この違いを押さえると、クラウドに置いてあるから安心という判断は成り立ちません。世代を持つこと、常時つながっていない別の場所に置くこと、実際に戻せるか試すこと。この3つがそろって、はじめてバックアップと呼べます。

APOULでは

日々の事務作業や情報管理を、少しでもシンプルにするために。

APOULは、こうした手間を減らすためのソフトウェアを開発しています。いずれも公開に向けて準備中で、価格・配布方法・対応環境は決まり次第、各製品ページで案内します。