- 下請法から取適法への名前と用語の変化
- 従業員数の基準で対象が広がった点
- 手形払いと一方的な代金決定の禁止
- 発注する側がまず見直す5つの項目
結論
先に結論を書きます。2026年1月1日から、下請代金支払遅延等防止法(下請法)は「取適法」になりました。名前が変わるだけの改正ではありません。資本金だけで決まっていた線引きに従業員数が加わり、以前は対象外だった会社も対象になりました。手形払いが禁止され、価格の協議に応じないまま代金を決めることも禁止されています。発注する側で、発注書の様式・支払いの方法・協議の手順の3つをまだ見直していない場合は、早めに確かめてください。
名前と言葉が変わる
正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、通称が「取適法(とりてきほう)」です。呼び方も変わります。
| これまで | 2026年1月から |
|---|---|
| 下請代金支払遅延等防止法(下請法) | 中小受託取引適正化法(取適法) |
| 親事業者 | 委託事業者 |
| 下請事業者 | 中小受託事業者 |
| 下請代金 | 製造委託等代金 |
社内の書式や説明資料に「下請」という言葉が入っている場合は、差し替えの対象になります。あわせて、下請中小企業振興法も「受託中小企業振興法」になりました。
自分の会社が対象かどうか
対象かどうかは、①取引の内容と、②資本金または従業員数の組み合わせで決まります。公正取引委員会のリーフレットでは、次のように示されています。いずれかの組に当てはまれば対象です。
製造委託・修理委託・特定運送委託と、プログラム作成・運送・倉庫での保管・情報処理の委託の場合。
| 委託事業者 | 中小受託事業者 |
|---|---|
| 資本金3億円超 | 資本金3億円以下 |
| 資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下 |
| 従業員300人超 | 従業員300人以下 |
それ以外の情報成果物作成委託・役務提供委託の場合は、3億円が5千万円に、300人が100人に置き換わります。
従業員数の追加で何が変わるか
これまでは資本金だけを見ていました。たとえば、資本金1千万円で従業員150人の会社が、資本金1千万円で従業員80人の会社に役務提供委託をする場合。資本金が同じなので、これまでは資本金の組み合わせに当てはまらず、対象外でした。2026年からは、発注側が従業員100人超、受注側が100人以下という組み合わせで対象になっています。資本金を増やさずに人を増やしてきた会社ほど、影響を受けます。
公正取引委員会の質問集では、従業員の数え方について、パートタイマーやアルバイトも含めること、製造委託等をした時点の常時使用する従業員の数で判断することが示されています。
自社が発注側か受注側か、どちらか一方とは限りません。同じ会社が、大きい会社から受けるときは中小受託事業者、小さい会社に出すときは委託事業者になります。
委託する側の4つの義務
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 発注内容等の明示 | 給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法などを、書面または電子メールなどで明示する |
| 書類の作成・保存 | 取引の記録を書類または電磁的記録として作り、2年間保存する |
| 支払期日を定める | 受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定める |
| 遅延利息 | 支払いが遅れた場合などに、年率14.6%の遅延利息を支払う |
この改正で、発注書を電子メールなどで送ることについて、相手の承諾が要らなくなりました。紙でなければいけない、という制約は外れています。ただし、電子メールなどで明示したあとに相手から書面を求められたときは、原則として書面を交付する必要があります。送った記録が残る形にしておくことも、これまでどおり必要です。
してはいけない11のこと
受領拒否、支払遅延、減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、報復措置、有償支給原材料等の対価の早期決済、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直し、そして協議に応じない一方的な代金決定の11項目です。最後の1つが、今回新しく加わりました。
手形払いの禁止
支払遅延の中に、手形払い等を支払手段に使うことが含まれました。手形だけでなく、電子記録債権などでも、支払期日までに代金の全額を受け取ることが難しいものは使えません。支払いサイトを手形で延ばしてきた取引は、方法そのものを変えることになります。
協議に応じない一方的な代金決定の禁止
材料費や人件費が上がったとき、受ける側から価格の協議を求められたのに、応じない、あるいは必要な説明をしないまま代金を決めることが禁止されています。公正取引委員会の質問集では、実質的な協議が行われたかどうかで判断される、と示されています。「据え置きでお願いします」の一言で終わらせる運用は、記録の上でも危うくなります。
何から手をつけるか
発注する側は、次の順で確認します。
- 自社と取引先の資本金・従業員数を一覧にして、どの取引が対象かを分ける
- 発注書の様式に、給付の内容・代金の額・支払期日・支払方法が入っているかを見る
- 支払いサイトが受領から60日以内か、手形や電子記録債権を使っていないかを調べる
- 価格の協議を、誰が受けて、いつまでに、何を説明して返すかを決める
- 発注から支払いまでの記録を、2年間取り出せる形で残す
受ける側は、1と2を自社の立場で確認したうえで、価格の協議を申し出るときに、根拠となる原価の変化を書いて出せるようにしておきます。求めたことと、返ってきた説明の記録が、そのまま証拠になります。
5番は、書類を探せる状態にしておく話です。発注書・納品書・請求書が、取引先と日付で取り出せるかどうか。この点は電子取引データの保存と同じ考え方で、e-fileもこの用途を想定していますが、公開予定の段階です。
フリーランスへの委託は別の法律
個人に仕事を出す場合は、2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)があります。こちらは資本金や従業員数で線を引かず、従業員を使わない個人などへの業務委託が対象です。両方の法律の対象になりうる取引もあります。その場合の適用関係は、公正取引委員会の資料で確かめてください。「うちは下請法の対象ではないから関係ない」とは言えません。
この記事は制度の全体像を短くまとめたものです。自社の取引が対象かどうかの判断や、個別の条項の適用は、公正取引委員会・中小企業庁の資料と、必要に応じて弁護士など専門家の確認をお願いします。
まとめ
2026年1月1日から、下請法は取適法になりました。名前と用語が変わり、従業員数の基準が加わり、手形払いと、協議に応じない代金決定が禁止されています。発注する側は、発注書の様式・支払いの方法・価格協議の手順の3つを、まだなら早めに見直すこと。受ける側は、自社が対象かを確かめ、協議を求める準備をしておくこと。どちらの立場でも、やり取りの記録を残せる形にしておくことが、いちばん効きます。