- PDFを置くだけでは保存にならない理由
- 書き換えを防ぐために示されている方法
- 検索できる状態にする2つの方法
- 運用ルールとして決めておく5つのこと
結論
先に結論を書きます。原則として、メールやWebでやり取りした請求書・領収書などのデータは、PDFをフォルダに入れただけでは保存の要件を満たしません。必要なときに取り出せる状態と、後から書き換えられない決めごとがそろって、はじめて保存です。国税庁は電子取引のデータ保存について、改ざんを防ぐ措置をとること、画面と印刷で確認できるようにしておくこと、そして取引年月日その他の日付・取引金額・取引先で検索できるようにしておくことを示しています。ただし、このうち検索の要件は、事業の規模や、税務調査の際にデータを出せるかどうかによって不要になる場合があります(後の節で説明します)。
なぜ「入れるだけ」では足りないのか
税務の調査で求められるのは、ファイルがあることではなく、特定の取引のデータをその場で出せることです。フォルダに1,000件のPDFが入っていても、「昨年8月の、A商事への、11万円の支払い」を探すのに30分かかるなら、取り出せる状態とは言えません。
もう1つが、書き換えの問題です。PDFは上書き保存できます。誰でも書き込めるフォルダに置いておくと、金額を直したかどうかを後から確かめる手段がありません。国税庁の案内では、この点について、タイムスタンプが付いたデータを受け取る方法、受け取ったデータにタイムスタンプを付ける方法、訂正・削除の履歴が残るシステムなどでやり取りし保存する方法、改ざん防止のための事務処理規程を定めて運用し備え付ける方法の、いずれかをとることが示されています。規程で運用する場合は、社内でルールを文書にして、そのとおりに運用することになります。規程のサンプルは国税庁のホームページに載っています。
どこまでが対象か
紙で受け取ったものと、データで受け取ったものは、扱いが分かれます。メール添付やWebサイトからのダウンロードで受け取ったものは、そのデータ自体が保存の対象です。これを印刷して紙で保管し、データを消してしまう運用は、いまは取れません。国税庁の一問一答でも、データを出力した書面などを保存する措置は廃止され、データそのものを保存しなければならないと説明されています。
原則どおりの保存に対応が間に合わない場合のために、猶予の措置があります。国税庁の案内では、原則のルールに従って保存できなかったことについて所轄の税務署長が相当の理由があると認める場合で、税務調査の際にデータのダウンロードの求めと、データを印刷した書面の提示・提出の求めのそれぞれに応じられるようにしているときは、データを保存しておくだけでよいとされています。事前の届出は不要で、人手不足やシステム整備の資金不足なども相当の理由として認められると書かれています。この場合も、データそのものは消さずに保存しておく必要があります。
逆に、紙で受け取った請求書をスキャンして保存する場合は、また別の要件の話になります。この記事では電子取引のデータに絞って書いており、紙のスキャン保存については触れません。
「PDFにして置いておけば法令対応が完了します」という説明は成り立ちません。要件は保存の方法と運用の両方にかかります。
検索できる、とはどういう状態か
検索の項目として示されているのは、取引年月日その他の日付・取引金額・取引先の3つです。国税庁の案内では、この3つで検索できることに加えて、日付または金額の範囲を指定した検索と、2つ以上の項目を組み合わせた検索ができるか、税務調査の際に職員からのデータのダウンロードの求めに応じられるようにしているか、のどちらかが必要とされています。
この3つで探せるようにする方法は、専用のソフトを使わない場合、大きく2通りあります。
方法1:ファイル名に3項目を入れる
専用のソフトを使わない場合の基本形です。「20260817_A商事_110000.pdf」「20260820_山田工務店_48500.pdf」のように、日付・取引先・金額をこの順で並べます。国税庁の一問一答にも同じ形の例があり、3つの項目を含めて統一した順序で入力しておく方法が示されています。この方法は、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしておくことが前提です。
日付は並べ替えができるように8桁で、取引先は略さず統一した表記で、金額は円単位で桁区切りを入れずに書きます。「A商事」と「エー商事」が混ざると探せなくなるので、取引先の表記は一覧を作って固定します。
方法2:一覧の表を作り、ファイルと結びつける
Excelなどで、日付・取引先・金額・ファイル名の列を持つ一覧を作り、フォルダのファイルと対応させます。国税庁の一問一答では、表計算ソフトの機能で範囲を指定したり項目を組み合わせたりして探せる状態であれば、検索の要件を満たすと考えられると説明されています。ファイル名を短くできることと、取引の内容や担当者などの項目を足せることが利点です。欠点は、一覧とフォルダが食い違う可能性が出ることです。月に一度、件数が合っているかを確認する作業を入れます。
どちらの方法でも、大事なのは表記を統一することです。取引先名の書き方が人によって違うと、検索の要件を満たしているつもりでも実際には探せません。
検索の要件が不要になる場合
検索の要件は、すべての事業者に同じようにかかるわけではありません。国税庁の案内では、税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるようにしていて、次のどちらかに当たる場合は、検索の要件を満たす必要はないとされています。
- 基準期間(通常は2年前。個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の売上高が5,000万円以下である
- データを出力した書面を、取引年月日その他の日付と取引先ごとに整理した状態で提示・提出できるようにしている
売上高が5,000万円を超えるかどうかの判断のしかたは、消費税の課税売上高とは中身が違う点などを含めて、国税庁の一問一答に説明があります。自社が当たるかどうかは、国税庁の案内で確認してください。なお、検索の要件が不要な場合でも、改ざんを防ぐ措置と、画面や印刷で確認できる備えは必要です。
運用ルールとして決めておく5つ
導入時に、次の5つを決めて文書にします。決めるのは仕組みではなく人の動きです。
- 置き場所:どのフォルダに置くか。部署ごとに分けるか、月ごとに分けるか
- 命名:ファイル名の形式。取引先名の表記一覧
- 入れる人:受け取った本人が入れるか、経理がまとめて入れるか
- いつまでに:受け取ってから何日以内に入れるか
- 直すとき:金額違いの再発行を受け取ったとき、古いほうをどう扱うか
5番を決めていない会社が多い部分です。再発行された請求書を上書きすると、前の記録が消えます。別ファイルとして両方を残し、どちらが有効かを一覧側に書く、という形にしておくと後から説明できます。
実務ではこうなる
たとえば、月に80件ほどの請求書をメールで受け取る卸売業の会社を考えます。担当は経理1人です。届いたメールを見つけるたびに添付を保存し、ファイル名を付け替えます。1件30秒としても月40分。件数が増えると、この作業が後回しになり、月末にまとめて100件を処理することになります。まとめてやるほど、命名の間違いが増えます。
減らせるのは、命名の部分です。PDFから日付・金額・取引先を読み取って候補を出せれば、担当者は確認して直すだけになります。ここはAI OCRの役割で、OCR Readerもその用途を想定していますが、公開予定の段階です。読み取りの限界については別の記事で書きます。また、複数の請求書が1つのPDFにまとまって届く場合は、先に分割する作業が入ります。
注意点
保存期間、対象となる取引の範囲、規模や状況に応じた取り扱いの定めなど、細かい要件は改正されることがあります。この記事では、その部分は断定しません。最新の要件は国税庁の案内で確認してください。自社の事情に当てはめる判断は、顧問の税理士に確認してください。
もう1つ、バックアップは要件とは別の話ですが、実務では重要です。保存先が1台のパソコンだけだと、故障で全部なくなります。保存の要件を満たすことと、データを失わないことは、別々に考えてください。
まとめ
- PDFをフォルダに置くだけでは、取り出せる状態にも、書き換えを防げる状態にもなりません。
- 検索の項目は、取引年月日その他の日付・取引金額・取引先です。ただし、売上高5,000万円以下などで、ダウンロードの求めに応じられる場合は、検索の要件が不要になります。
- 方法はファイル名に入れるか、一覧の表で管理するかの2通りです。
- 取引先名の表記を統一しないと、検索できる状態になりません。
- 保存期間や区分などの細かい要件は、国税庁の案内で確認してください。