IT基礎

認証局の鍵が弱かった件。ブラウザが信頼をやめる仕組み

2026年10月、認証局 eMudhra(emSign)の中間CA証明書の秘密鍵が弱く、取り出せることが報告されました。Googleの発表をもとに、鍵マークを支える信頼のつながり、ブラウザが信頼をやめる仕組み、個人とサイトの担当者が確かめることを整理します。

最終確認 2026.11.07約6分で読めます

この記事で分かること
  • 鍵マークを支える「認証局・ルート・中間」のつながり
  • 「鍵が弱かった」とはどういうことか
  • ブラウザが認証局の信頼をやめる2つの方法
  • 個人とサイトの担当者が確かめること

結論

2026年10月17日(協定世界時)、認証局 eMudhra(emSign)の中間CA証明書について、秘密鍵が十分な乱数を使わずに作られていて、取り出せることが報告されました。悪用されれば、信頼される偽のHTTPSの証明書を作れるおそれがありました。Googleは同じ日にChromeでこれらの中間CA証明書を止め、10月19日にはAndroidにも同じ守りを届けています。個人の利用者がすることはほとんどありませんが、サイトの担当者は、自社の証明書がどこから発行されているかを一度確かめてください。

鍵マークを支える信頼のつながり

ルート証明書
  • ブラウザやOSに最初から入っている
  • 一覧から外されると信頼されない
中間証明書
  • ルートが認めた認証局
  • 今回は鍵が弱く、ブラウザが止めた
サイトの証明書
  • 中間CAが発行する
  • 階層をたどって発行元を確かめる
ブラウザは「サイトの証明書 → 中間 → ルート」とたどり、最後が信頼するルートなら本物として扱います。

鍵マークを支える信頼のつながり

HTTPSのサイトを開くと、サーバーは「このドメインの持ち主です」という証明書を見せます。証明書を発行するのが認証局です。ただ、ブラウザは世界中のサイトの証明書を一つずつ覚えているわけではありません。覚えているのは、信頼してよい認証局の大もとの証明書(ルート証明書)の一覧だけです。

実際のサイトの証明書は、ルートが直接ではなく、ルートが認めた「中間」の認証局(中間CA)が発行するのがふつうです。ブラウザは「サイトの証明書 → 中間CA → ルート」とたどり、最後が一覧にあるルートなら信頼します。会社にたとえると、ルートが本社、中間CAが支店、サイトの証明書が支店の出した身分証です。支店の印鑑が他人の手に渡れば、本物と見分けのつかない身分証が作れてしまいます。

ここがポイント
鍵マークが示すのは「通信が暗号化され、証明書の確認が通った」ことまでです。運営者が信頼できるかどうかは示しません。この点は「HTTPSにしても防げないこと」の記事で詳しく書いています。

「鍵が弱かった」とはどういうことか

認証局は、証明書に署名するための秘密鍵を持っています。この鍵は、予想できない乱数をたっぷり使って作るのが前提です。今回は、その乱数が足りない作り方だったため、外から鍵を割り出せる状態でした。暗証番号を「好きな数字」ではなく「限られた候補の中から」選んでいたので、候補を順に試せば当てられた、というイメージです。

鍵が割り出せれば、その中間CAの名前で、どのドメインの証明書でも作れます。偽サイトが本物と同じ鍵マークで表示されるおそれがあった、ということです。Googleの発表によると、これらの認証局につながる証明書は、止める前に証明書の透明性(CT)のログに一つも記録されていませんでした。CTを求めるChromeなどでは、偽の証明書は使えなかったことになります。

ブラウザが信頼をやめる2つの方法

ブラウザが認証局の信頼をやめる方法は、大きく2つあります。

方法何をするか今回の動き
止める一覧に載せる特定の中間CA証明書を「使わない」と配るChromeは10月17日にCRLSetという一覧で配布。ブラウザの更新や再起動は要らない
ルートを一覧から外す大もとのルートごと信頼をやめるChrome Root Store から「emSign ECC Root CA - G3」を外す。Googleは米国太平洋時間の10月27日(火)の朝に配ると発表していた

1つ目は早く効きますが、一覧を受け取る仕組みがある端末にしか届きません。2つ目は、その一覧を受け取らない使い方の端末も含めて信頼をやめるためのものです。その代わり、このルートにつながる正しい証明書も、Chromeで使えなくなります。

Androidと Googlebook には、Google Play 開発者サービスを通して、10月19日(協定世界時。日本時間では20日の朝)に同じ止め方が届けられました。多くの端末にはすでに入っていて、端末を再起動するとすぐに反映されるとGoogleは説明しています。

個人の利用者がすること

Chromeを使っている人は、今回の分は自動で守られています。ただ、ルートを外すような変更は、新しい版や更新の仕組みを通して届きます。ブラウザとOSの更新を止めず、通知が来たら当てておくことが、今回のような件への備えになります。

確認リスト

  • Chromeが最新の版になっているか(設定の「Chromeについて」で確かめられる)
  • Androidの端末を、しばらく再起動していないなら一度再起動したか
  • 更新が止まった古い端末で、大事なログインや支払いをしていないか

サイトの担当者が確かめること

Googleは、このルートにつながる証明書を使っているサイトに対し、すぐに Chrome Root Store にある別の認証局から新しい証明書を取り、入れ替えるよう求めています。ルートを外す変更は、10月27日(米国太平洋時間。日本時間では27日の深夜から28日)に配られる予定と発表されていました(Chrome の試験版には、それより早く届くとされていました)。11月7日の時点で、Googleの発表のページに配布が終わったという追記は見当たりませんが、予定の日はすでに過ぎています。このルートにつながる証明書のままだと、Chromeで自社サイトが開けなくなっているおそれがあります。

Googleは11月4日に発表へ追記し、別のルート「emSign Root CA - G1」につながる証明書についても、最初のSCT(証明書の透明性のログに載った時刻の記録)が2026年11月16日(協定世界時)より後のものは、Chrome 153 以降で初期設定では信頼しないとしました。証明書の階層に emSign の名前があるなら、G3 か G1 かにかかわらず、早めに発行元へ相談してください。Googleによると、eMudhraは影響を受ける利用者の移行に協力するとしています。

確かめ方は、ブラウザで自社サイトを開き、アドレス欄の左のアイコンから証明書の詳細を開いて、「階層」や「証明書のパス」を見ます。上から順にルート、中間、サイトの証明書の名前が並びます。そこに「emSign」の名前があれば、証明書を発行した会社か、サイトを作った制作会社にすぐ相談してください。

注意
ブラウザ以外のソフトは、ブラウザの守りを使いません。スマホアプリ、社内システム、外部のAPIを呼ぶサーバー、複合機や古い端末は、それぞれが持つ証明書の一覧で判断します。

例えば、Pythonは10月21日の版で、同梱の pip と証明書の一覧(certifi)をこの件に合わせて新しくし、既存の仮想環境でも pip を上げるよう案内しています。Node.jsも同じ日の更新で、組み込みの証明書の一覧を更新しました。こうした一覧を自分で持つソフトは、更新するまで古い信頼のままです。自社で使っているソフトや機器がどうなっているかは、作った会社や販売元に聞くのが確かです。

確認リスト

  • 自社サイトの証明書の階層に「emSign」の名前がないか
  • 自社のアプリやサーバーが、Python・Node.jsなどの証明書の一覧を更新した版になっているか
  • 複合機や業務用の端末など、更新されにくい機器の販売元に問い合わせたか

まとめ

  • 鍵マークの信頼は、ルート → 中間CA → サイトの証明書というつながりでできています。
  • 今回は中間CAの鍵が弱く、偽の証明書を作れるおそれがありましたが、Chromeは同じ日に止め、Androidにも届いています。
  • ブラウザは「止める一覧」と「ルートを外す」の2段で信頼をやめます。
  • ブラウザ以外のソフトや古い機器は、自動では守られないことがあります。

今日、まず確認すること

自社サイトを開き、証明書の階層に「emSign」の名前がないかを見てください。あれば、証明書の発行元か制作会社に連絡します。